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8 FALL 三品輝起さんの10年メモ





先日、知人の編集者2人と「なnD」という冊子をつくった。

そのなかで、吉祥寺「Roundabout」の小林和人さんと、西荻窪「FALL」の三品輝起さんに対談をしていただいた。おふたりとも雑誌等で文章を書かれているが、そのこととお店をやっていくことに通じるものはあるのかどうか、といった話など。

「FALL」は不思議なお店だ。

週替りで作家ものの器やアクセサリーなどを展示しつつ、輸入雑貨や文房具、CDなどを取り扱っている。そういうお店は他にもあるだろうが、「FALL」は何ともとらえどころのない独自の佇まいをしている。それは店主のパーソナリティによるものなのだろう。

その一端に触れるべく、三品さんの10年メモの一部を公開していただいた。(nu)




三品輝起さんの使い方

字が病的に汚い。自分で読み返せないことなんてざらだ。なのにメモ魔なふしがあって、増えつづける過去の痕跡にどんどん離人感がつのっていく。こんな、みなさまのようなオシャレでスマートな使い方からほど遠い、エントロピー増大手帳を公開していいのかしら……。

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10年メモは1年目はガマンで、2年目から楽しさがでてくると思う。よって(真矢みき氏の言葉をかりるなら)「あきらめないで」書きつづけてほしい。例えば2013年4月3日。「暴風雨」とある。去年はこんなことなかったのにねぇ温暖化ってやーね、なんて言ってたら、2012年の同日にも「(台風のような)暴風の低気圧」と記されている……。だからなんだってことはないんですが、ある種の世界の傾向のようなものが見えてくるかもしれない。毎年風邪をひきやすい季節、女性にときめきやすい月、無性に青汁を飲みたくなる各種条件、口内炎の周期までわかるようになったら……どうってことないか。あと最近はジョギングしてるので、今日は何キロ走った、みたいな記録もつけてる。



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(あらためて)おれの字、死んでますねー。右側の白紙スペースにはその日に読んだ本、見た映画、聴いた音楽なんかを書いてみたり。なんか10代の書生さんみたいだな。このように固有名詞をいちいち書きとめて悦に浸ってるような世代は、ダウンロード世代や断捨離世代にはついていけない惨敗兵だ。いずれ彼らに断捨離されるだろう。だけど日記というのはそもそも、望もうが望むまいがモノを所有することへの飢餓感があったころの産物なのだ。時間をとどめて、失わないように楔を打ちつける。という自己満足。いまはすべてが自動でログされてモノが溢れくさってますので、逆にこの手書きの手帳で飢餓感を擬似的につくることができれば、目の前のモノの価値が上がる(なけなしのお小遣いで小説を買ってた中学生のころの状態をつくりだせる)……。わけはない。しかし、自覚はないかもしれないけど、情報を塞き止めて流通量を減らすことで、個々の情報の価値を上げようとしている人はたくさんいるのだ。売りオペレーション。


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もはやなんで書いたのかよくわからないが、衆参の選挙制度と定員(一票の格差)の図。敬愛する北杜夫氏のエッセイの抜き書き。『色彩を持たない田崎真也(ソムリエ)と、彼の巡礼の旅』という走り書き。あと年金制度の図。人はなぜ夢を見るのかという最新学説のメモもある(睡眠を守るため、らしいです)……。



はい。といった具合にゴミ溜めみたいな手帳になっている。こちらにご登壇されてる方々のようなコンセプチュアルなものも、アフォリズムもポエジーもない。どうでもいいことを後生大事に書き残しているだけだ。つづけてきた小さな店だって、きっと同じなんだろう。



近況
『nu』編集者もたずさわった雑誌『なnD』に「小林和人(Roundabout, OUTBOUND)× 三品輝起(FALL)」という対談企画で参加してます。今年の「超文学フリマ」のために、企画から入稿まで1週間で仕上げたそうです。



10年メモ 取扱店

三品輝起(みしな・てるおき)
79年京都生まれ、愛媛出身。東京在住。音楽活動としては10年『LONG DAY』(Loule)、12年『OFF SEASON』(RONDADE)をリリース。同年、美術家・武田晋一とともに「OUTBOUND」にて展示「OFF SEASON」を発表。13年3月「iTohen」に巡回。普段は05年より東京・西荻窪にて器と雑貨の店「FALL」を経営。経済誌、その他でライターなどもしている。
fall-gallery.com